多くの企業が海外市場への進出を目指しています。しかしながら、言語や文化、習慣の違いから現地に根付いた事業を実現するためには、ローカライズの対応が不可欠となります。
そこで、この記事では、実際の企業の成功事例や失敗事例を取り上げて効果的なローカライズのポイントを探っていきます。ローカライズがなぜ、そこまで重要視されているのか、効率的にローカライズするにはどういったことを注意するべきなのか、具体例も挙げて分かりやすく解説していきます。
なぜ海外進出においてローカライズを行うことが重要視されているのか
企業が海外市場へ進出する際には、ローカライズ対応が不可欠となっています。ローカライズとは、言語、文化、習慣などの側面から、ターゲット市場に最適化することを指します。これを怠ると、現地のユーザーへ商品の情報や魅力を的確に伝達できず、ターゲットにとって目新しい物などは受け入れられないリスクもあります。
例えば、日本では長さや重さを表すのに「cm」や「kg」を使用していますが、アメリカでは長さは「feet(フィート)」や「yard(ヤード)」、重さは「ounce(オンス)」や「pound(ポンド)」と表記します。こうした記載がそのままになっていると、顧客は商品の詳細が分からず購入から遠ざかってしまいます。
このように、顧客に合わせたローカライズは、海外ビジネスを成功に導く重要な鍵となるのです。
▼翻訳とローカライズの違いについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
https://igni7e.jp/blog/the-difference-between-translation-and-localization
効果的なローカライズを行うポイントとは
それでは、効果的なローカライズを実現するためのポイントをいくつかの軸から解説していきます。言語対応はもちろんのこと、文化的な配慮、ローカル人材の活用、マーケティング戦略の展開など、ローカライズに求められる幅広い要素を一つひとつ掘り下げます。
言語への適切な対応
ローカライズの土台となるのは、言語対応です。ターゲットとする市場の言語に完全に適応することが何より重要となります。正確な意味の伝達はもちろんですが、それ以上に自然な言語表現を心がける必要があります。不自然な言語使用は、商品やサービスの本来の価値を伝えきれず、ユーザーの信頼を損ねてしまう恐れがあるのです。
AI翻訳を使用した単なる機械的な翻訳ではニュアンスや文化的考慮をすることは難しく、可能であればネイティブによるチェックを行って丁寧に言語のブラッシュアップを重ねることが求められます。例えば、「商品」は英語で「goods」や「products」といったような表現があります。
しかし、これらにはそれぞれのイメージがあり、「goods」は店頭に出されている食品や商品のことを指し、「product」は原料を加工して作られる製品や家電製品などのことを指す場合が多いです。
こうした言い回しの自然さ、ニュアンスの違い、文化的含意などの細かいところまで気を配る必要があります。言語に対する細やかな配慮により、ローカライズを成功させる大事なポイントをおさえることが出来ます。
▼海外向け翻訳を成功させるための戦略について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
https://igni7e.jp/blog/translation-for-overseas
文化的な理解と適応
海外市場に進出する際は言語の壁を越えるだけでなく、文化や習慣の違いにも適応することが非常に重要です。
具体的には、ターゲット国の宗教的背景を理解し、それに基づいた配慮が求められます。例えば、イスラム教やヒンドゥー教、ユダヤ教ではそれぞれ肉類や魚介類といった禁止されている食べ物があります。こうした食習慣への対応もとても大切です。
参考元:飲食店なら知っておきたい!各宗教で禁止されてる食事は何?
また、色彩の象徴的な意味合いも文化圏によって異なります。例えば、白は日本では清浄を表しますが、中国では死や喪失を連想させる色とされています。国によって違う色へのイメージも理解した上で、商品のパッケージやウェブサイトのデザインなどを作成することも重要となります。
参考元:デジタルマーケティングに役立つ、国によって違う「カラー」イメージ | ストラテ
このように、言語のみならず文化や習慣の多様性を深く理解し、現地に合わせたローカライズを行うことが、海外市場での成功の鍵を握ると言えるでしょう。細部まで気を配り、ターゲット市場のニーズに応えることが肝要です。
ローカルな専門知識の活用
現地の事情や業界の特性を熟知した専門家の知見を活かし、精度の高いローカライズを実現することが重要です。ターゲット市場特有の事情や業界の慣習などに適切に対応するためには、現地企業やエキスパートとの緊密な連携が欠かせません。
車の語句を例に挙げると、日本語でもあまり聞くことがない「一般構造用圧延鋼材」という一般的にSS材と呼ばれる物ですが、英語では「Rolled steel for general structure」と言います。こうした専門的な単語や文章に関しては、やはり知識のあるプロや専門家に任せることがおすすめです。
彼らの専門的な知識や経験を最大限に活用することで、ローカライズの質を高め、現地のニーズに合致した製品やサービスを提供することが可能となります。
的確なマーケティング戦略の展開
効果的なローカライズを行う上で、現地の市場リサーチと競合分析は必要不可欠です。これらの調査を通じて、ターゲット市場の特性や消費者のニーズ、競合他社の動向を深く理解することができます。得られた知見をもとに、現地の文化や嗜好に合わせたマーケティング戦略を綿密に練り上げることが重要です。
リサーチの過程では、過去にローカライズに取り組んだ企業の事例を詳細に分析することも有効です。成功事例からは、現地市場に受け入れられるための秘訣や効果的なアプローチ方法を学べ、失敗事例からは、陥りやすい落とし穴や避けるべき戦略を知ることができるでしょう。これらの教訓を自社の戦略立案に活かすことで、リスクを最小限に抑えながら、現地市場に最適化された施策を打ち出せます。
自社の強みを生かしつつ、緻密なマーケットリサーチと競合分析にもとづいた戦略的なアプローチとローカライズによって、海外市場での成功を手にすることができるはずです。
▼海外向けマーケティングのポイントについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
https://igni7e.jp/blog/key-points-marketing-overseas
ローカライズの成功事例
現地のマーケットリサーチや競合分析を行い、ターゲット市場の実情に合わせたマーケティング戦略を起案する必要があります。リサーチの段階から、過去のローカライズ事例の成功パターンや失敗の要因を分析し、自社の戦略に活かすことも重要なポイントです。
それでは、ここからは海外進出に成功している日本企業が行ったローカライズ事例をあげていきます。
1. スズキ
参考元:Suzuki USA
自動車メーカーのスズキは、日本企業の中で最も早く海外進出に着手した先駆者として知られています。特に、アジア地域においては各国でトップシェアを獲得していますが、その成功の秘訣には、徹底したローカライズ戦略があります。
スズキは「世界各国・地域のニーズに合った製品をラインナップし、現地生産していく」という事業方針を掲げて海外進出を進めています。パキスタン、インド、タイ、アメリカなどの16か国に生産拠点を設け、現地の要望に応えた製品づくりを行っています。
例えば、インドでは道路インフラが十分に整備されていないことから、路面状況があまり良い状態ではありませんでした。スズキはこうした現地の事情を考慮して自動車の開発から製造を全てインド現地で実施し、車高を少し上げるといった現地の道路事情に適した設計を施したインド向けの自動車を製造しました。
さらに、インドでは全長4m未満の車両に対する税制優遇措置があることから、この基準を満たす車種を多数ラインナップに加えています。
参考元:スズキをインド市場1位に導いた「徹底したローカライズ戦略」とは? | 海外進出ノウハウ | Digima〜出島〜
このように、スズキのローカライズ戦略は、単に現地の嗜好に合わせた製品を提供するだけでなく、生産面でのノウハウの共有も含んでいます。
2. UCC上島珈琲
参考元:UCC Ueshima Coffee Co.,Ltd.
イギリスやスペイン、オランダなどの8カ国へ展開しているUCC上島珈琲は、日本国内外のそれぞれの市場に合わせてパッケージのデザインを作成しています。
具体的には、日本向けには多色使いのアーティスティックなデザインを用いる一方、イギリスでは、調査の結果、日の丸を連想させる赤丸と水墨画風の黒い線によるシンプルでダイナミックなデザインが日本のイメージだとされていると分かり、下の写真のようなデザインが選定されています。
【日本向け】
参考元:ブレンド(250g/豆)
【イギリス向け】
参考元:Coffee Beans: House Blend
実際のところ 多くの国で日本のイメージカラーは赤と黒とされており、外国人が経営をする和食レストランでもこれらを基調としたデザインがよく見られます。
このように、UCC上島珈琲は各国・地域の文化や嗜好を深く理解し、それに合わせた製品デザインやサービスを提供することで、海外市場での成功を収めています。グローバル展開においては、現地の特性を踏まえたローカライズが重要であることを示す事例と言えるでしょう。
ローカライズの失敗事例
ここからは、ローカライズの失敗が要因となって海外進出に苦戦した事例をご紹介します。ローカライズの失敗は、企業にとって大きな損失となる可能性があるため、他社の事例から学ぶべき教訓は多いでしょう。
1. LINE
参考元:LINE
日本で最も利用されているSNSアプリのLINEは、海外での利用者数はまだ限定的と言えるでしょう。日本では、LINEでテキストメッセージだけでなく写真や動画、音声メッセージを送り合うなど幅広く使用されています。
しかし、海外ではそういったことができるWhatsAppやFacebook、Messenger、中国ではWechatといったアプリが既に存在しており、新たなユーザーの獲得に苦戦しています。これらの競合に対抗するためには、差別化された価値提案とマーケティング戦略が不可欠になってきます。
また、LINEは「スタンプ機能」など独自の魅力を持っていましたが、機能やコンテンツがターゲット層のニーズや文化的背景と合致せず、知名度の向上には繋がりませんでした。この教訓をもとに、現在では日本国内での事業展開に生かしています。
この事例から学ぶべきは、海外展開においては徹底的な現地調査とローカライズが不可欠だということです。調査する際には、現地のニーズや文化だけではなく、現地市場の競合についても理解しておく必要があります。分析結果をもとに、自社の強みに合わせて商品やサービスをカスタマイズすることが求められます。こうしたLINEの経験は、グローバル展開を目指す日本企業にとって貴重な教訓となっています。
2. 楽天
参考元:Rakuten.de
ECモールで知られる楽天の海外事業の失敗から学ぶべき教訓は、市場理解の不足や現地パートナーの選定が挙げられます。
海外進出を成功させるためには、現地の競争状況や消費者ニーズを適切に把握することが不可欠です。単に自社のビジネスモデルを持ち込むだけでは通用しません。綿密な市場調査を行い、現地の実情に合わせた戦略を立てる必要があります。
例えば、韓国の20代に向けて商品を宣伝する場合、日本ではLINE広告を使用してうまくいっていたからといって韓国でうまくいくとは限りません。しっかり現地のターゲット調査を行って、カカオトークの普及率が高いことがわかればより効率的に商品を宣伝したいターゲットに対してアプローチができます。
最後に、楽天は2016年で6カ国の国からの撤退を表明しており「イギリスとスペインでは、事業のサイズに比して成長のための費用が不釣り合いなため、オペレーションを閉鎖する計画に至った」と声明しています。これには現地のパートナー企業や政府との連携が不十分だったため、現地のSNS活用や最適なビジネスモデルを取り入れられなかったことが原因と言えます。
楽天の経験は、国際化を目指す企業に多くの学びを提供しています。これらの教訓を胸に、地道な努力を重ねることで、海外事業で持続的な成長を遂げることが可能となるでしょう。
まとめ:成功事例、失敗事例からローカライズのポイントを理解しましょう
海外でのビジネス展開においては、ローカライズへの適切な取り組みが極めて重要です。これらの成功事例から分かるように、現地市場の調査やターゲット理解といった地道な現地対応の努力が実を結び、大きな商機を掴むことができます。
その一方、失敗事例からは、現地に最適化すると言うローカライズの欠如が、企業の足を引っ張る結果になるということが学べました。
このように、海外進出へはローカライズの取り組みが事業の成否を大きく左右するのです。これらの実例から学び、言語、文化、マーケティング、現地人材の活用など、ローカライズのあらゆる側面に目を向けることが、海外進出を成功に導くポイントだと言えるでしょう。
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