近年、多くの日本企業が海外進出を積極的に行っています。
2022年に外務省が行った「海外進出日系企業拠点数調査」では、中国が31,324件、アメリカが8,673件、そしてタイが5,856件の拠点で展開しています。その他にも、アジアや新興国の国が上位にきていることから、人口が上昇傾向にある国や地域に進出していることがわかります。
しかし、海外進出にはメリットだけでなく、もちろんデメリットも存在します。今回の記事では、日本企業が海外進出する理由や、そのメリットとデメリットを詳しく解説します。
海外進出する日本企業が増えている理由
なぜ、これだけ日本企業が海外進出への進出をしているのでしょうか。具体的には、日本国内での人口減少や日本の商品への注目が集まっていること、そして円安が関係しています。それでは、それらの理由について詳しく解説していきます。
国内の人口減少
日本企業が海外進出を積極的に推進している背景には、国内の人口動態の変化が大きく影響しています。日本は、世界でも有数の少子高齢化社会であり、出生率の低下と平均寿命の延伸により、総人口の減少が加速しています。
厚生労働省によると、国内の人口減少は重大な局面を迎えており、2070年に総人口が約9,000万人となり、高齢化率が39%程度の水準になると予測されています。
この人口減少は、国内市場の縮小を招くとともに、多くの企業にとって事業の継続や成長が困難になる原因です。
参考元:我が国の人口について
日本の商品の注目度が上昇している
海外で日本の商品は、その品質の高さと独創性により比較的高い評価を得ています。下記の図は、国家ブランド指数と呼ばれるもので日本企業が上位を占めていることは、その証左と言えるでしょう。
参考元:国家ブランド指数 2023:日本が史上初の首位に | Ipsos
特に、IT分野では、日本企業の技術力とイノベーション力が世界的に認められています。日本のエレクトロニクス製品やソフトウェアは、その性能と信頼性で定評があり、多くの国々で愛用されています。
また、アニメやゲームなどのコンテンツ産業においても海外進出している日本企業は世界をリードしています。日本のアニメは、その独特の表現力と物語性で国境を越えて人々を魅了し、IP人気ランキングにおいても、ポケットモンスターやハローキティが上位にきているのが分かります。
ゲームにおいても、革新的なゲームデザインと高いクオリティが世界中のゲームファンを虜にしています。
参考元:【2024年版】人気のIPコンテンツ売上ランキング|ポケモンの順位は? | IP mag - IPの可能性を広げるエンタメ経済メディア
円安の影響
2024年現時点では特に、円安は海外向けに輸出をしている企業にとって追い風となっていると言えるでしょう。
これにより、海外市場での価格競争力が高まり、輸出量の増加が期待できます。これは、海外での売上高の増加、収益性の向上に寄与します。特に、海外市場に大きく依存している企業や、高付加価値な製品を輸出している企業にとっては、大きなメリットとなるでしょう。
参考元:企業の想定為替レートに関する動向調査(2023年度)
日本企業が海外進出するメリット
ここからは、海外進出のメリットについてご紹介します。日本企業が海外向けにビジネスを展開した場合には、どういった利点があるのでしょうか。
販路の拡張
東南アジアやアフリカ諸国は、ここ数年でも目覚ましい人口増加と経済発展を遂げており、日本企業にとって魅力的な市場となっています。これらの地域では、所得水準の向上に伴い、消費者の購買力が高まっているため、日本国内市場よりも大きな販路拡大が期待できます。
特に、日本では需要が限定的な商品でも、東南アジアやアフリカ諸国では高い需要が見込める場合があります。例えば、日本国内では買い替え需要が中心となる中古車のパーツ市場ですが、これらの地域では、中古車そのものの需要が高く、パーツの需要も旺盛です。また、日本の高品質な中古車パーツは、現地の消費者から信頼を得やすいという利点もあります。
参考元:日本の中古車輸出154万台に、識者に聞く
コスト削減になる
海外進出を検討する際、進出先の国の税制や人件費は重要な要素です。国や地域によって異なりますが、日本と比べて税金や人件費が安い国があることは事実です。また、国内よりも原材料や設備が安く手に入る場合もあります。
しかし、人件費については、単に賃金水準で選ぶのではなく、労働者のスキルや生産性、労働法規などを総合的に判断することが大切です。安い人件費を求めるあまり、現地の労働者の権利を侵害したり、生産性の低下を招いたりしては本末転倒です。
従って、各国の税制や人件費を慎重に比較検討し、自社のビジネスモデルや戦略に合致した最適な選択をすることが肝要です。安易な判断は避け、専門家の意見も参考にしながら、総合的な観点から意思決定を行うことが望ましいでしょう。
企業イメージの向上
海外市場のニーズを的確に捉え、それに合わせた高品質な製品を提供することは、グローバル企業としての評価を大きく向上させる鍵となります。
例えば、日本のアパレル大手であるユニクロは、海外進出戦略を積極的に推し進めることで、世界的なブランドとしての地位を確立しました。ユニクロは、現地の気候や文化、ライフスタイルを深く理解し、それぞれの国や地域に適した商品開発を行っています。
また、高品質な素材や優れた機能性を持つ製品を、手頃な価格で提供することで、幅広い層の支持を獲得しています。こうした取り組みにより、ユニクロは日本発のグローバルブランドとして、世界中の消費者から高い評価を得ています。
参考元:“パリコレ”で調査、ファッション業界人のユニクロ着用率は74%
新たなアイデアの発見やビジネスチャンスの機会に繋がる
海外進出は、企業にとって大きな成長の機会をもたらすことも考えられます。自国とは異なる文化や市場に触れることで、これまでとは違った視点やアイデアを得ることもできます。
現地の消費者ニーズや嗜好を深く理解することで、自社の製品やサービスをそれらに適応させ、新たな価値を提供することが可能となります。また、現地の企業や人材との協業を通じて、革新的なビジネスモデルや技術を開発することもできるでしょう。
さらに、海外の多様な人材と交流することで、自社の組織文化や働き方にも良い影響を与えます。グローバルな視野を持った人材の育成や、多様性を尊重する企業文化の醸成にも繋がります。
日本企業が海外進出するデメリット
こうした日本企業の海外進出はメリットがある反面、デメリットも抱えていることを忘れないでください。ここからは、具体的にどういった点でマイナスな影響を及ぼす可能があるのか海外進出の課題などについてご紹介します。
言語や文化の違いによる課題
現地での人材雇用は、言語や文化の違いが大きな障壁となり人材管理や育成が困難と言えます。
コミュニケーションにおいては、言語の違いによる誤解や、文化的背景の相違から生じる意思疎通の齟齬が発生する可能性があります。また、現地パートナーとの関係構築においても、文化的価値観や商習慣の違いが、信頼関係の醸成や円滑な協業を阻害する要因となり得ます。
例えば、英語の中にもアメリカ英語とイギリス英語といった違いがあります。「色」をアメリカでは、「catalog」と書きますがイギリスでは、「catalogue」になる、というようなことです。
そのため、言語や文化の違いに起因する課題に対しては、現地の言語や文化に精通した人材を確保することが最適です。しかし、自社でそういった適任の人材を見つけることが難しい場合は翻訳会社や専門家に発注することが望ましいと言えるでしょう。
労力と時間の消費
海外進出を成功させるためには、入念な準備と継続的な努力が不可欠です。現地市場の調査や競合分析を行い、自社の強みを活かせる戦略を立て、現地の文化や嗜好に合わせたウェブサイトやコンテンツを制作すという多岐にわたる課題をクリアしていく必要があります。
特に初期段階では、市場調査や人材確保、インフラ整備などに多大な投資と時間が発生するため、長期的な視点を持って取り組むことが重要です。一朝一夕には、結果が出ないかもしれませんが、現地のニーズを的確に捉え、柔軟に対応していくことで、徐々に成果が表れてくるはずです。
カントリーリスクが伴う
海外進出を検討する際は、進出先国のカントリーリスクを十分に考慮することがとても重要です。
日本ではあまり起こりませんが、クーデターによって政治が急変したり、規制強化など外国企業に逆風となる事態が起こる可能性があります。また、自然災害や新たな感染症の蔓延リスクも看過できません。日本のようにBCP対策が十分でない国も多いため、リスクを完全に予測することはとても難しいです。
例えば、ロシアによるウクライナ侵攻は、欧州に進出している日系企業の事業に大きなマイナスの影響を与えました。特に製造業では、エネルギーや原材料価格の高騰、物流の混乱などにより、コスト増加や事業の縮小や停止を余儀なくされています。さらに、戦争の長期化や先行きの不透明感、戦線拡大のリスクなども、現在もなお懸念材料の1つになっています。
参考元:ロシア・ウクライナ情勢下における在欧日系企業アンケート調査結果(2022年9月) ―エネルギー価格の上昇などで8割近くがマイナスの影響
このように、カントリーリスクを踏まえた上で、万全の準備を整えることが大切だと言えるでしょう。
まとめ:自社のブランド色や市場などを考慮し海外進出を検討しましょう
海外進出は企業に大きなチャンスをもたらす一方、様々な課題も伴います。メリットは、販路拡大やコスト削減、企業イメージの向上などがあり、その反面、言語や文化の違いによるトラブルや、現地での事業立ち上げに多大な労力と時間を要するデメリットもあります。
海外進出を成功させるには、自社の特性や目標市場を分析し、進出先の市場環境や競合状況を調査したうえで、リスクを最小限に抑えつつ最大限の効果を得られる戦略を立てることが重要となります。
現地パートナーとの連携したり専門家への相談をすることで、効率的に海外進出を進めることができるため長期的な目線で見ると、コストに対するパフォーマンス力は高いと言えるでしょう。企業の失敗事例の分析をし、自社の強みを活かしながら現地の事情に柔軟に対応できる体制を整えることが鍵となるでしょう。
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