海外市場への進出は、新たな顧客の獲得や事業の拡大に繋がるため、多くの企業が進出を目指しています。
その一方で、海外展開には様々な課題が存在します。その中でも、言語や文化の違いや現地の法規制への対応、人材の確保と育成などの問題は多く存在します。これらの課題に適切に対処し、綿密な準備を行うことで海外展開は大きなチャンスとなります。
この記事では、海外進出を目指す企業が直面する主な課題について解説し、それらを乗り越えるための戦略を詳しく紹介します。
なぜ海外進出する企業が増えているのか
2022年度のJETRO「日本企業の海外事業展開に関するアンケート」によると、多くの日本企業がアメリカや中国、タイへ向けての事業展開を検討しています。大企業だけでなく、今や中小企業のターゲット市場も海外へ向かっているようです。
参考元:日本企業の海外事業展開に関する アンケート調査
こうした背景には、日本の少子高齢化問題に伴う人口減少、そして日本の製品やサービスに対しての海外からの需要が高まっていることが関係しています。そこで、はじめにこの2つの要因について詳しくご紹介します。
日本国内の人口減少
日本の人口減少と高齢化が進行している今、国内市場の成長鈍化は避けられない状況にあります。このような国内事情から、企業は新たな事業機会と収益源を海外に求めざるを得なくなっています。海外市場への進出は、企業成長の切り札と位置付けられています。
実際に経済産業省の調査によると、2023年第2四半期の日本企業の海外現地法人における売上高は、前年同期比3.0%増となっています。欧米では輸送機械を中心に売上高が伸び、インドでは11期連続で売上高が拡大しています。
この結果からも、海外進出することで得られる市場拡大のメリットが分かります。
参考元:2023年4~6月、日本企業の海外現地法人売上高は3期ぶりにプラス(世界、中国
日本の製品・サービスの需要増加
中国やインド、東南アジアの新興国を中心に、近年所得水準が向上し、中間所得層が拡大しています。これを受けて、日本の高品質な製品やサービスに対する需要が世界的に高まっています。
具体的には、新興国の社会インフラ関連に対しての日本のサービスへの需要が上昇傾向にあります。特に保守・修理サービスや技術的な相談、コンサルティング、業務改善といった日本のサービスは信頼厚くニーズが集まっています。
参考元:社会インフラ関連企業の新興国におけるサービスの重要性
こうした追い風を受けて、海外進出を本格化させる企業が増えているのです。
海外進出時に発生する課題について
海外へ進出する際には、必ずといっていいほど様々な課題が発生します。適切な人材確保、言語の障壁、文化や法規制の違い、そして海外進出にかけるコストといったものがあります。これらに対して、事前に準備して実行をすることが、海外進出を目指す上はとても重要になります。ここからは、そんな海外進出に発生する課題について解説していきます。
優れた人材の確保が困難
海外での事業展開には、その地域の市場や文化を理解し、事業を推進できる優秀な人材が必要となります。
しかし、そういった現地の事情に精通し、言語力も高い優秀な人材の確保は容易ではありません。採用から育成までとなると多大なコストと時間がかかり、中小企業にとっては大きな障壁となります。言語の壁や文化の違いから、ミスマッチのリスクも高まります。
そうした優秀な人材を確保しないとならないビジネスであれば、海外進出をしないという選択が最善となってしまうことも考えられます。それでも、海外進出を目指すということであれば、優れた人材を計画的に確保したり、もしくは信頼のおける現地の企業とパートナーを組むという方法が最適と言えるでしょう。
言語やコミュニケーションの障壁
ビジネスにおいて言語の違いは、単なるコミュニケーションの障壁にとどまらず、重大なリスクを抱えています。現地の顧客や取引先との契約書の誤解や誤訳などからトラブルに発展する可能性も考えられます。
また、こうした契約書やマニュアル、広告を全て現地語に翻訳するためには一定の時間とコストがかかります。加えて、ただ単に翻訳するだけでは不十分で数値の表記や通貨を対象国に合わせて変更したり、商品の詳細を説明する際にも現地の人に分かりやすいようにローカライズする必要があります。
可能であれば、翻訳をネイティブチェックしてもらうことがおすすめです。その国のネイティブスピーカーであれば、微妙なニュアンスの違いや伝えたいことを最適な方法で現地の言葉にすることが可能となります。
商業慣習、文化、法規制の相違
各国には独自の商習慣、文化、法制度があるため、これらを理解し遵守することは海外進出の成功に不可欠です。これらを十分に理解せずに事業を行えば、トラブルに巻き込まれるリスクが高まります。
例えば、インドへ商品を輸出する場合にはインドの政府が決めたBIS(Bureau of Indian Standards)と呼ばれる規格に沿っているか試験にて認証を受ける必要があります。これに通れば、BISマークを取得することができ、輸出が可能となります。
参考元:よくあるご質問(インドBIS認証)
こうした国別の法律や規制に関して、全て理解し把握することは難しいため信頼できる現地のパートナーと提携や、法律や規制に関しては弁護士のような専門家のアドバイスを仰ぐことが最適だと言えるでしょう。
予算
海外進出を検討する際、多くの企業が直面する最大の障壁の一つが、高額な初期投資です。新たな市場に参入するためには、綿密な市場調査、現地法人の設立、優秀な人材の採用、効果的なマーケティング戦略の立案と実施などの様々な準備が必要不可欠です。
これらの活動には多大な費用がかかるため、特に中小企業にとっては大きな財政的負担となります。限られた予算の中で、海外進出に必要な資金を確保することは容易ではありません。自己資金だけではまかないいきれない場合、銀行からの借り入れや投資家からの資金調達を検討せざるを得ませんが、これらのプロセスにも時間と労力がかかります。
さらに、海外進出の成否が不確実な段階で、多額の投資を行うことへの不安も大きいでしょう。このように、予算的な制約は中小企業の海外進出における大きな障壁となります。
課題に対する打開策と海外進出を成功させるポイント
こうした多くの企業が直面している課題を打開し、海外進出を成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。そこで、優れた人材の確保や言語への対応、文化や法規制の最適化、そして予算面、それぞれの打開策とそのポイントについてご紹介します。
ポイント1. 優れた人材・パートナーの確保
優れた人材の確保は、海外進出における最大の課題の1つです。理想を言えば、ターゲット市場のネイティブスピーカーを採用することで、言語と文化の障壁を乗り越え、現地の事情に精通した人材を確保できます。
しかし、優秀なネイティブスピーカーの確保は、タイミングや条件次第で極めて難しくなる可能性があります。そこで現実的な対策として、社員に対する言語研修や文化研修の実施が有効で、社員の語学力と現地市場への理解を深めることは可能です。
ただ、これだけではネイティブスピーカーのような海外進出においてキーを握るような人材育成は難しいため、海外ビジネスに精通した国内企業とパートナーシップを組んで行うのがおすすめです。パートナー企業が持つネットワークやノウハウを活用することで、優秀な人材の確保が可能になります。人材育成における協力関係を構築することで、海外進出に向けた体制を着実に整備できるでしょう。
ポイント2. ネイティブスピーカーによるチェック
言語の障壁は、海外ビジネスを行う上で避けては通れない課題です。この問題に対処するためには、多角的なアプローチが不可欠です。まずは社内で言語研修を行い、基本的な外国語によるコミュニケーション能力を育てることも可能です。しかし、研修だけでは言語力向上に限界があるため、高度な語学力の習得までには至らないことが考えられます。
そこで、外部の専門サービスを活用することが有効な選択肢となります。ネイティブスピーカーを多数抱える通訳や翻訳会社に、重要な案件を委託することで確実なコミュニケーションを実現できます。
例えば、契約書の作成や交渉、各種手続きなど言語の壁が障害となる業務は専門的な知識が必要となります。また、中国語を例に挙げると「中国語」とひとくくりに言っても、「広東語」や「北京語(マンダリン)」、「上海語」のように様々です。地域によって、言語が伝わる場所と伝わらない場所が出てきてしまうため、こうした知識を持ったネイティブスピーカーへ依頼することや専門家に依頼することが賢明でしょう。
言語の問題は、単なるコミュニケーションの問題にとどまらず、重大なリスクを及ぼす可能性もあります。こうした専門家の力を借りることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
ポイント3. 現地に精通したコンサルタントや専門家へ依頼
現地の市場環境や文化的背景、法制度などを十分に理解せず、適切な海外事業戦略を立案することはできません。徹底した市場調査は、必須の作業といえるでしょう。
しかし、この重要な調査作業を自社の力だけで実施するのは現実的ではありません。特に、海外市場に関する専門知識を持った人材が不足している場合、調査の質を確保することは極めて困難です。
そこで、市場調査について専門家に依頼することも賢明な選択肢となります。現地に精通したコンサルタントやシンクタンクなどの専門家は、的確な市場分析と戦略立案を行うことができます。
もちろん、専門家に調査を外注するには一定のコストがかかります。しかし、間違った戦略による損失に比べれば、それほど大きな金額ではありません。初期の段階で専門家に頼ることで、後々の大きなリスクを回避できます。
ポイント4. 長期的な予算計画と助成金や補助金の利用
海外進出には多額の資金が必要となります。そのため、綿密な計画と予算管理が不可欠です。まずは初期投資から運転資金、さらには予期せぬ出費までを見据えた詳細なビジネスプランを作成する必要があります。
自社の経営資源だけで海外展開を行えば、コストを最小限に抑えられるかもしれません。しかし、長期的な視点に立てば、むしろ専門家への外部委託を活用する方が賢明な選択になる可能性があります。
もちろん、予算に余裕がない場合は全面的な外部委託は現実的ではありません。そこで一つの対策として部分的な専門家支援を検討することも1つの選択肢です。例えば、市場調査や各種コンテンツ作成など特定の業務領域に限定して専門家に委託することで、質の高いサービスを低コストで依頼できます。
また、行政の助成金や補助金を使用する方法もあります。中小企業の場合、予算的に困難な場合もあるため、一定の条件を満たせば国から助成金を受け取ることも検討すると良いでしょう。
例えば、特許庁が提供している、中小企業が海外での特許や商標の出願を行う際に、出願料や翻訳費用などの一部を補助する制度である、中小企業等海外展開支援事業費補助金などがあります。
参考元:外国出願に要する費用の半額を補助します | 経済産業省 特許庁
このように、自社の経営資源を最大限に活用しつつ、効果的に専門家の力を借りることが重要になります。詳細な計画を立て、コストとリターンを見極めながら最適な外部委託の在り方を模索していくべきでしょう。
まとめ:海外進出における課題を解消するなら専門家にも頼ってみましょう
海外進出を検討する際、企業は様々な課題に直面します。優秀な人材の確保、言語の壁、文化や法律の違いなど、克服すべき障壁は数多くあります。これらすべてを自社の経営資源だけで対応することは、多くの場合、時間とコストがかかり現実的ではありません。
そこで、プロや専門家の力を借りることをおすすめします。海外進出に精通したコンサルタントや法律家、現地の事情に詳しい専門家などと協力することで効率的かつ効果的に課題を解決できます。また、信頼のおける現地のパートナー企業と連携したり、一部業務を委託したりすることで限られた経営資源を最大限に活用することができます。
海外進出の成功には、入念な計画とこうした外部の専門性を組み合わせることがとても重要となります。自社の強みを生かしつつ、専門家の知見を取り入れることで海外市場でのビジネスチャンスを最大限に活用できるでしょう。
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