越境ECを運用するメリットとデメリットとは?

近年、インターネットの普及とグローバル化の進展により、国境を越えたオンライン販売といった越境EC(E-Commerce)が注目を集めています。多くの企業が、新たな市場開拓の手段として越境ECに乗り出す一方で、運用面での課題も指摘されています。

そこで、この記事では、越境ECを運用することで得られるメリットと、同時に直面するデメリットについて詳しく解説します。

越境ECについて

それでは、越境ECとはどういったことを指すのか解説していきます。

越境ECとは

越境ECとは、電子商取引(EC)の一種で、国境を越えてオンラインで商品やサービスを販売することを指します。インターネットサイトを通じて、自国だけでなく海外の消費者にも直接商品を販売できるのが特徴です。今では、越境ECは中小企業にとっても重要な販路の一つとなっています。

越境ECの現状と今後の需要について

スマートフォンの普及によりオンラインショッピングを利用するユーザーが増加し、特にパンデミックを機に、その傾向が加速しました。国外の商品を手軽に購入できるという利点から、越境ECの需要は今後も拡大していくと予想されています。

実際に、経済産業省の推移によると、日本の越境EC市場規模は2022年に22兆7,449億円に達し、世界のB to CのEC市場も拡大し続けて2025年にはEC化率が24.5%に達すると予測されています。市場規模も2025年には約961兆円まで成長すると見込まれ、今後ECサイトの重要性はさらに高まっていくと言えます。

世界のEC市場規模
参考:経済産業省『令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書』図表 7-4:世界の BtoC-EC 市場規模(単位:兆 US ドル)
https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220812005/20220812005-h.pdf

▼海外進出の進め方やサポート会社について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

https://igni7e.jp/blog/support-for-overseas-business-expansion

越境ECのメリット

越境ECは、海外市場へのアクセスを容易にするとともに、競合が少ない環境でビジネスを展開することが可能です。これにより、海外で注目される日本の商品を効果的に販売でき、さらに実店舗と比較して簡単に出店ができるという大きなメリットがあります。以下で、これらのメリットについて詳しく解説します。

市場拡大

まず、越境ECを導入することで海外市場へのアプローチが可能となり、顧客基盤を大幅に拡大することができます。国内市場だけでなく、世界中の消費者を対象にビジネスを展開できるのが大きな利点です。

特に、国内市場が飽和状態にある企業にとって、越境ECは新たな成長の機会を提供します。また、海外展開を通じて、企業の競争力強化にも繋げることができます。具体的には、中国やアメリカが、日本企業が次に狙うべき有望な越境EC市場だと考えられます。

中国の中国青年報社、社会調査センターが統計を取った、1001人を対象とした2023年のアンケート調査によると、回答者の64.3%が「生活の中でネットショッピングが既に一つの趣味になっている」と回答しました。この結果からも、中国をターゲットとし、越境ECを展開させることは良案だと言えるでしょう。

ネットショッピングの娯楽化
参考元:http://j.people.com.cn/n3/2023/0615/c94475-20032270.html

このように中国やアメリカは、既に大きな市場規模を持っており、日本企業にとって重要な市場となります。

売上の増加

そして、顧客数の増加に加えて世界規模で販売戦略を立てることで、年間を通じて売上機会を増やすことができます。また、通貨の変動を利用して価格競争力を強化することも可能です。

例えば、円安の局面では、日本製品の価格競争力が高まり、海外での売上増加が期待できます。加えて、海外の消費者は日本製品に対する信頼度が高く、高品質な商品を求める傾向があるため、適正な価格設定により高い利益率を維持できる可能性があります。

ブランド認知度の向上

また、世界中の消費者から認知され、良質な商品とクオリティの高いサービスを提供し続けることで、ブランドの価値が向上します。

特に、日本製品は品質の高さで知られていることから、越境ECを通じて海外で高い評価を得ることで、ブランド力の強化が期待できます。また、海外の消費者からのフィードバックを得ることで、製品やサービスの改善にも役立てるなどの利点もあります。

最近では、海外では手に入れることが難しい日本製の自転車やバイクの部品の需要が高まっています。例えば、世界的自転車部品メーカーの株式会社SHIMANOは、2019年の第2四半期の連結売上高は前年同期比4.2%増となっています。売上の約9割が欧米や北米といった海外市場からで、ホイールからブレーキまで自転車の主要コンポーネントを幅広く手掛けており、世界的に高い評価を得ています。

株式会社SHIMANOホームページ
参考元:https://bike.shimano.com/ja-JP/home.html

これは、コロナ禍をきっかけとしたDIY需要の増加や部品不足による代替需要、そして日本メーカーの高い技術力なども背景にあり、日本の製品が海外で人気を集めているということが分かります。

▼他にも海外ビジネスの成功例について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

https://igni7e.jp/blog/business-for-overseas-case-study

実店舗を構えるよりリスクが低く展開可能

実際に海外に実店舗を構える場合、多額の資金と手間が必要となります。店舗の賃借料や人件費、現地の法規制への対応など、多岐にわたる課題があります。

一方、越境ECであれば、これらのリスクを抑えつつ、低コストでビジネスを展開することができます。在庫管理やウェブサイトの運営など、国内で行っている業務の延長線上で対応できるため、比較的参入しやすいのが利点です。

豊富な補助金

越境ECを導入する際に、国が行っている補助金制度があります。ここからは、実際に利用可能な補助金制度をご紹介します。

IT導入補助金

IT導入補助金
参考元:https://it-shien.smrj.go.jp/

IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者等がITツールを導入する際に、経費の一部を国が補助する制度です。越境ECサイトを運営する上で、ECサイト構築ツールや決済システムといったITツールが不可欠です。そのため、ITツールの導入の際には、IT導入補助金を利用することがおすすめです。

2024年度は、インボイス枠と通常枠があり、補助額は最大450万円、補助率は1/2〜4/5となっています。

申請には、「事業準備」「交付申請」「事業実施」「補助金交付後」の4つのフェーズに分かれ、ITツール導入後に事業実績報告を提出し、補助金額が確定したのち交付されます。IT導入補助金を活用することで、ITツールの導入コストを抑えつつ、業務効率化と生産性向上を図ることができます。

ものづくり補助金

ものづくり補助金
参考元:https://portal.monodukuri-hojo.jp/

この補助金は、中小企業の生産性向上のための設備投資等を支援するものです。越境ECサイトを立ち上げる際に必要となる、ECサイト作成ツールや支払いシステムなどのインフラ整備に対して、こちらの補助金を利用することが可能です。

申請は、年4回の締切があり、事業計画書などの書類の提出が必要になります。採択後は、事業を実施し、効果報告が必須です。補助金の申請には、専門的知識が必要なため、支援機関等と連携することが重要になるでしょう。

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金
参考元:https://r3.jizokukahojokin.info/

小規模事業者持続化補助金は、従業員数20人以下の小規模事業者が販路開拓や生産性向上などの取り組みを行う際、経費の一部を支援する制度です。補助金の対象には、ECサイトの立ち上げや更新、改修に必要な費用も含まれており、これらの費用の一部が補助金として対象になる場合があります。

補助上限額は50万円から200万円で、商工会等の支援を得て事業計画書を作成し申請する必要があります。採択は容易ではありませんが、経営基盤の強化に役立てることができます。

越境ECのデメリット

越境ECにはいくつかのデメリットも存在します。配送には高いコストがかかり、また、対象国に応じて適切な施策を考慮しなければならないことがあります。さらに、決済方法の精査も必要です。これらのデメリットについて、次で詳しく解説します。

規制と法律の複雑さ

各国には、独自の法律や税制、規制があるため、越境ECを運用する際にもこれらに適応する必要があります。そのため、それぞれの国に合わせて法的な面での対応が複雑になることが、デメリットの一つです。

海外では、商品を販売する際に関税が高く設定されている商品があります。例えば、革製品には最大20%の関税がかかることがあり、商品価格が高くなってしまいます。また、国によって売上税の扱いが異なるため、税金の計算が複雑になる場合があります。

主な商品の関税率

参考元:https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1204_jr.htm

このように事前に、これらの税制度を理解し、コストや手続きを見込んでおくことが肝要でしょう。

物流と配送の課題

越境ECにおける課題として、配送時間の長さと適切な配送業者があります。国際配送では時間がかかるため、顧客の期待に応えられるよう配送業者を慎重に選ぶ必要があります。また、商品が安全に届くための適切な梱包も重要となります。

フランスでは、包装の材質に関する規制があり、使い捨てプラスチックを使用した包装をしている場合は、通関を通ることができないなどの可能性もあります。

循環経済法の施行(フランス)
参考元:https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2020/0601/d20d98ef8e3131f1.html

さらに、商品の配送状況を顧客に提供するトラッキングシステムの導入も課題の一つです。トラッキング番号や配送ステータスを提供することで、顧客の不安を軽減し、こうした積み重ねで顧客との信頼関係を築くことができます。

文化的・言語的障壁

また、製品やマーケティング戦略をターゲットの文化や言語に適応させる必要もあります。これには、徹底的なリサーチで各地域の消費者行動や嗜好を理解し、適切にアプローチしていくことが求められます。

ある日本の工作機械メーカーが、言語の壁などで海外でのアフターサービスに苦慮した例があります。この結果から、多言語対応や現地スタッフ教育、サービス拠点整備などの現地に合わせた手厚いカスタマーサポート体制の構築が不可欠ということが分かります。言語や時差の壁によるトラブル対応の遅れや不十分なサポートは、せっかく開拓した海外市場での評判を落としかねないということを覚えておきましょう。

決済方法の課題

そして、先進国ではクレジットカード決済が一般的ですが、それ以外の国では普及率が低い場合もあります。ターゲットとする国の主要な決済方法を導入する必要があり、国によっては対応が難しいケースも出てきます。

例えば、中国ではAlipayやWeChatPayが主流ですが、これらに対応するには、現地の決済代行会社と提携する必要があります。

中国で主要な決済方法
参考元:https://www.china-arekore.com/entry/2018/04/06/063051

また、為替リスクにも注意が必要です。海外の消費者から現地通貨で支払いを受ける場合、為替レートの変動によって、実質的な売上が減少するリスクがあります。こういったことも含めて、慎重にリサーチをすることが重要です。

マーケティングや広告の課題

対象国やターゲットによっても、マーケティング戦略や広告の方法を検討しなければなりません。文化的な違いを考慮することに加え、各国の広告規制にも留意が必要です。

例えば、ベトナムには「ベトナムの広告規制関連法令」という法令があります。この規制では、広告してはいけないものや「第一」や「唯一」のような同様の意味合いを持った言葉を使用してはいけないと言った決まりがあります。違反すればペナルティを課されるリスクもあり、慎重な対応が求められます。

国別の広告規制法
参考元:https://www.businesslawyers.jp/practices/1332

また、現地の競合他社の動向を把握し、適切な差別化を図ることも重要です。海外の消費者の嗜好や行動パターンを分析し、効果的なマーケティング施策を打ち出すには、現地の市場調査が不可欠ですが、社内リソースだけでは対応が難しい場合もあります。

▼海外プロモーションのポイントについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

https://igni7e.jp/blog/explanation-of-overseas-promotion

越境ECに取り組む際は、これらのメリットを最大限に活かしつつ、デメリットへの適切な対策を講じることが重要です。

越境ECを運用するメリットデメリット

まとめ:メリットやデメリットを理解した上で運用を!困難な場合は専門家に相談ください

越境ECには、市場拡大やブランドの認知度向上などのメリットがある一方で、法規制への対応や物流の課題などのデメリットも存在します。

特に、海外展開のノウハウがない場合は、専門家に相談し、各国の法律や税制、商慣行に精通した者のアドバイスを得ることが有効だと言えるでしょう。また、物流や決済、カスタマーサポートなど越境ECに特化したサービスを提供する企業との連携も一つの選択肢です。

越境ECは大きな可能性を秘めていますが、適切な準備と対応が成功の鍵を握るため、メリットとデメリットをしっかり見極め、自社に合った戦略を立てることが重要です。

この記事を監修した人
Daisuke K
マーケター、CMO
2021年にCMOとしてIGNITEのへの参加を果たした。以前からマーケティング業界での勤務経験を有し、IGNITEでは海外市場向けのマーケティング戦略を展開している。あらゆる国や地域からの、BtoB、BtoC案件を総監し、海外進出を検討する日本国内の企業から、日本への参入を希望する海外企業までのサポートを行っている。
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