近年、著しい経済成長を遂げるインドは、日本企業にとって大きなビジネスチャンスを秘めた魅力的な市場です。 巨大な人口と中間層の増加は、消費市場としての潜在力を示し、IT分野をはじめとした高度人材の豊富さも魅力の一つです。
この記事では、インド市場の魅力、日系企業の進出状況、そして成功のためのポイントを解説します。インド市場への理解を深め、適切な戦略を立てることで、大きな成功を収める可能性が広がります。
インド経済市場の現状
インド経済市場は、世界的に注目を集めています。ここでは、その現状、既に進出している日系企業のリスト、そしてインド進出における人気都市について解説します。
インド経済の現状
インド経済は、世界経済の減速懸念の中でも堅調な成長を維持しています。IMF(国際通貨基金)の予測によると、インド経済は世界で唯一6%台の成長が継続する見通しです。2023年4月時点の一人あたりGDPは2,600ドルですが、今後の購買力増加により市場は大きく成長すると予測されています。
JETRO(日本貿易振興機構)の発表によれば、インドでは低所得者層の割合が年々減少し、富裕層や上位中間層が増加しています。この購買力の高まりにより、多様なサービスや商品が今後さらに受け入れられていく市場になると予想されます。この成長トレンドは、日本企業にとって大きなビジネスチャンスと言えるでしょう。

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インド進出の人気都市
インドへのビジネス進出を検討する際、最適な拠点選びは成功への重要な一歩です。数多くの都市の中から、今回は日系企業に人気の高い都市トップ5とその魅力をご紹介します。
マハーラーシュトラ(787拠点)
インド経済の中心地、マハーラーシュトラ州。787拠点もの日系企業が集積する最大の理由は、ムンバイを擁する巨大市場、高度なインフラ、豊富な人材です。金融、製造業、ITなど多様な産業が発展し、ビジネスチャンスに溢れています。プネー、ナーシクも有力な拠点候補地です。
ハリヤナ(600拠点)
デリー近郊のハリヤナ州は、首都圏へのアクセス抜群。600拠点の日系企業、特に自動車関連企業が多く進出しています。低い人件費、安定した電力供給、積極的な投資誘致策も魅力です。グルガオン、ファリダバードは近代的な都市環境を提供します。
タミルナド(565拠点)
南インドのタミルナド州は、チェンナイを中心に自動車、IT、製造業が盛んです。565拠点の日系企業は、質の高い労働力、良好な治安、チェンナイ港による物流の利便性を享受しています。州政府のビジネスフレンドリーな政策も後押しです。
カタルナータカ(512拠点)
「インドのシリコンバレー」カルナータカ州。バンガロールは512拠点の日系企業を含むIT企業の集積地です。高度人材、活気あるスタートアップ、国際的な雰囲気は、革新的なビジネスに最適です。バイオテクノロジー、航空宇宙産業も注目されています。
グジャラート(332拠点)
安定した政治と経済成長を誇るグジャラート州。332拠点の日系企業が石油化学、医薬品、繊維産業などで活躍しています。積極的なインフラ整備、投資誘致策、効率的な港湾施設は、製造業や輸出企業にとって大きなメリットです。アーメダバード、スラトも主要都市です。

出典:インド進出日系企業リスト
日本企業にとってのインド市場の魅力
インドは、2029年には日本を抜き世界第三位の経済大国になると予測され、さらなる成長が見込まれる市場規模は、日本企業の注目の的となっています。
ここからは、インド市場の魅力的な要素を、市場規模、労働力コスト、輸出拠点、そして税制優遇制度という4つの観点から解説します。

市場規模の拡大
インドは、世界最大の若い人口を抱える国です。 2029年には日本を抜き、世界第三位の経済大国になると予測されており、2035年にはGDPが10兆ドル(約1,000兆円)規模に達すると見込まれています。
急速な経済成長と拡大する中間層は、新たな消費マーケットを開拓する潜在力に満ち溢れています。市場規模の拡大は、日本企業にとって、新規顧客獲得や既存事業の拡大に大きな機会を提供するでしょう。今後ますます重要性を増すであろうインド市場への対応を迅速に進めていく必要があります。
比較的低コストの労働力
インドには、高度な技術や英語スキルを持つ、世界で活躍できる人材が豊富にいます。日本企業にとって、労働コストの低さや優秀な人材の獲得という点は大きな魅力となります。
これまでは、中国や東南アジアといった地域での製造や開発拠点構築に力を入れてきましたが、インドにおいても生産拠点の新設を検討する余地があります。労働力の質、コストパフォーマンスは、これからの投資機会として捉えることができます。

輸出拠点としての可能性
近年、アジアの輸出拠点は、中国や東南アジアに集中していました。しかし、インドにおいても生産拠点の新規設立を検討する余地があります。
特に、日本企業の強みである技術やノウハウを活かし、インド国内向けの生産を増加させること、あるいはアジア地域向けの製品をインドで製造し、輸出することで、生産コストの削減とリードタイムの短縮というメリットが見込めます。
さらには、関税の優遇や周辺諸国への販売促進、輸送コスト低減といった、生産拠点に関連したあらゆる要因を考慮に入れる必要があります。
様々な税制優遇制度
事業展開を考える上では、税制に関する知識が不可欠です。ここからは、インドにおける様々な税制優遇制度について詳しく解説し、日本の企業がインド進出を成功させるためのヒントを提供します。

【経済特別区(SEZ)における税制優遇】
SEZに設立された企業は、法人税が15年間免除されます。また、輸入資本財や原材料に対する関税も免除されます。
【特定分野における税制優遇】
自動車産業や再生可能エネルギー産業など、特定の分野で事業を行う企業に対して、法人税の軽減措置や投資促進税制などが適用されます。
【二重課税防止条約に基づく優遇】
インドは日本を含む多くの国と租税条約を締結しており、配当や利子、ロイヤルティなどの所得に対する源泉税率が軽減されます。例えば、日印租税条約では配当の源泉税率が10%に抑えられています。
【デジタル経済に対する課税】
2020年4月から、インドではデジタルサービスに対する「平衡税」が導入されました。これは、インドの消費者を対象としたデジタルサービスの提供者に対して課される税金で、税率は2%です。ただし、インドに恒久的施設がある場合は適用除外となります。
これらの税制優遇制度を活用することで、インド市場における競争優位性を確保し、事業成功に繋げることができます。進出を検討する際には、最新の税制情報を常に確認し、専門家への相談も有効です。
日本企業が気をつけるべきインド進出の注意点
インドは人口増加と経済成長が著しい潜在力の高い市場ですが、日本企業が進出する場合には、文化やビジネス慣習の理解、適切な情報収集が不可欠です。多くの注意点が存在するため、事前に綿密な調査と準備が必要です。
インド進出を考える日本企業は、文化、社会制度、インフラ、情報の側面を多角的に捉え、戦略を策定する必要があります。
文化的相違の理解
インドの文化は多様で、日本のビジネス慣習とは大きく異なる点も多く存在します。ジェスチャーや言葉遣いは特に注意が必要です。 例えば、親指と人差し指で「OK」のサインを作る習慣はインドでは侮辱的な意味合いを持つ場合があります。

相手の文化を尊重し、失礼がないように配慮することは、良好な関係構築に必須です。ビジネスシーンでは、事前に現地担当者からのアドバイスを求める、現地企業との連携を強化するなど、文化理解を深めるための工夫が求められます。
カースト・ジャーティ制度
インドには、カースト制度の影響が強く残っています。ビジネスシーンでは表面化していない場合も多いですが、人事採用、顧客接点、事業展開といったあらゆる場面でカースト制度への配慮が必要です。
近年は、IT産業の発展により都市部ではその影響は薄まっている傾向があるものの、地域によっては根強い影響力があり、潜在的なリスクと認識しておくことが大切です。様々な立場の人々がビジネスに参画している事を認識し、偏見を持たずに対応する必要があるでしょう。

インフラ整備の遅れ
インドのインフラ整備は、日本と比較すると遅れている部分が大きく、物流、通信網など様々な場面で影響を受ける可能性があります。特に、計画された納期、配送状況、取引における通信状況は慎重な配慮が必要でしょう。
予測外の遅延に対応するため、予め余裕を持ったスケジュール設定と代替案の準備が必要となります。遅延のリスクや不安定な環境に対応する体制づくりも重要です。
正確な情報収集
インド進出においては、市場調査、経済状況、政治情勢、法規制、労働問題といった情報収集が必須です。多角的な視点から分析し、正確な情報を把握することが成功へのカギとなります。
現地企業とのネットワーク構築を通じて市場リサーチや情報収集を進め、適切なリスク対策に繋げるべきです。偏った情報や特定の情報源への依存を避けるよう、多様な視点の情報収集を行い、現状把握を図ることが重要です。
インド進出を成功させる戦略ポイント
インドは人口が多く、急成長する市場として注目を集めています。しかし、複雑な市場構造や独特の文化背景を理解しないままでは、簡単に失敗する可能性があります。
それでは、インド進出を成功させるための戦略ポイントをいくつか紹介します。

ターゲット地域の理解・ボリュームゾーンを狙う
インドは、北から南、東から西まで地域によって消費者の嗜好や購買行動が大きく異なります。単なる市場調査では、この複雑さを捉えきれません。地域の文化や習慣、宗教、言語といった細部に至るまで理解することが重要です。
所得水準も多岐に渡り、低価格帯商品やサービスへの需要が依然として大きいです。これらの特性を詳細に分析し、特定の地域やボリュームゾーンを絞り込むことで、より効果的なマーケティング戦略を立案できます。ニーズに応じた、差別化された製品開発と的確な顧客セグメントへのアプローチが成功へのカギです。
現地人材と協力し、リスクを未然に防ぐ
インド市場への進出では、現地人材との協力が不可欠です。法規制、慣習、顧客ニーズなど、日本とは異なる多くの課題に直面することでしょう。優秀な現地人材と連携することで、これらの課題を迅速かつ効果的に解決し、成功確率を高めることができます。
EOR(Employer of Record)を活用することで、現地法人の設立といった煩雑な手続きを省き、迅速な市場参入が可能となります。専門知識と現地での深い理解を兼ね備えた人材が事業展開の成功に導きます。
インドパートナーとの合併も視野に入れる
インド市場の巨大なポテンシャルを最大限に活かすためには、現地パートナーとの協力関係を構築することが有効です。合弁事業はリスク分散にも繋がり、スムーズな展開が期待できます。
一方で、インド特有の複雑なビジネス慣習、法規制対応、交渉などの課題も存在します。
事前に詳細な調査を行い、合弁企業としての長期的視点を持つ必要があります。 日本側独資のみでなく、合弁によるリスク分散を効果的に検討し、持続的な事業成長に繋げていきましょう。
インド進出に成功した日本企業の事例
それでは、実際にインド進出に成功している日本企業の事例を以下の国際協力機構の報告を参考にして見ていきましょう。
参考資料:国際協力機構
1. AGC株式会社

参考元:AGC
AGC株式会社(旧・旭硝子)は、ガラスや化学品のグローバルリーダーとして知られています。インドでは、自動車用ガラスや建築用ガラスの製造・販売を展開し、現地の需要拡大に対応しています。
特に、自動車産業の成長に合わせて現地生産体制を強化し、日系・現地自動車メーカー双方への安定供給を実現、現地人材の積極採用や技術移転にも注力し、現地社会との共生を図っています。
2. 関西化工株式会社

参考元:関西化工株式会社
関西化工株式会社は、工業用化学品や塗料の分野で高い技術力を有する企業です。インド市場では、自動車や家電業界向けの機能性塗料やコーティング剤を提供し、現地メーカーの品質向上に貢献しています。
インド特有の気候や市場ニーズに合わせた製品開発を進め、現地パートナー企業との協業を通じて着実にシェアを拡大しています。
3. 味の素株式会社

参考元:Ajinomoto Group
味の素株式会社は、食品・アミノ酸事業で世界的に展開している企業です。インドでは調味料や加工食品の販売を積極的に進め、現地の食文化や嗜好に合わせた商品開発を実施しました。
特に、インドの家庭料理に合う調味料やインスタント食品が好評を博し、現地生産・販売体制の強化を図っています。また、CSR活動や現地雇用の創出にも積極的に取り組んでいます。
まとめ:インド進出を成功させるための重要ポイント
インド市場は、世界経済の成長鈍化の中で、堅調な成長を続ける魅力的な市場です。人口ボーナスと購買力上昇で、多くの日本企業が進出を検討しています。インドへの進出を検討する日系企業にとって、市場規模の拡大、比較的低コストな労働力、輸出拠点としての可能性、税制優遇制度の活用が大きな魅力です。
しかし、文化やビジネス慣習の違い、インフラの課題、正確な情報収集の重要性といった注意点も考慮する必要があります。成功へのカギは、インドの文化・社会情勢の理解、現地人材との協業、インドパートナーとの連携強化、適切なリスク対策、市場調査の徹底です。AGCや関西化工、味の素といった既に成功事例を参考に綿密な計画と準備でインド市場開拓を成功させていきましょう。
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